凡人とは違うゲーテの時間間隔

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凡人とは違うゲーテの時間間隔

 ゲーテほど自分を、そして時間をとことん完全燃焼させて、大業をなしとげた男もいないのではないだろうか。不朽の名作『ファウスト』を書き上げるのになんと60余年も費やしているのである。年譜を見ると次のようになる。

 1831年(82歳)
  1月、遺言状執筆。
  7月、『ファウスト』第二部完成。その草稿に封印をする。
 1832年(83歳)
  1月、『ファウスト』を取り出し、手を加える。
  3月12日、午前11時30分、永眠。

 20代から書き始めた『ファウスト』を、ゲーテは死の2ヵ月前まで気にかけ、一度封印した草稿をひもとき、もう一度手を加えている。この執念は並大抵のものではない。
 「全身全霊をあげて究めようとしている人類の最高段階に達することができないとしたら、いったいこのおれは何なのだ」というファウスト博士の言葉は直接ゲーテの胸の内から出たものである。そういう願望と目標があったからこそゲーテはたゆまぬ活動を維持し続けることができたのである。

 また、ゲーテは世俗の面でも成功を収めた男である。22歳で弁護士開業、26歳のときにザクセン・ワイマール公国へ招聘され、27歳で内閣に議席と投票権を持つ顧問官、29歳で兵事委員会・道路改修委員会の長官兼任、30歳で大臣、33歳で内閣主席、となっている。

凡人とは違う時間感覚

 異例の出世をしたこのゲーテという男は、やはり凡人とは違う時間感覚を持っていた、ということがその作品、そして生涯からうかがうことができる。

 たとえば、『西東詩篇』には次のような言葉がある。
 「わたしが相続したこの遺産は、なんとすばらしく大きいことか。
 時間はわたしの財産だ。私の耕地はこの時間なのだ」
 たゆまぬ活動の場としてゲーテは時間をとらえている一方、その時間が自然の中にあるときには、美を見出すことも忘れてはいない。

 詩『四季』にある次の対話は時間と美の関係を示唆して余りある。
 「なぜにわたしは移ろいやすいのでしょうか」と、美がたずねた。
 「わたしは移ろいやすいものだけを美しく造ったのだ」と、神は答えた。
 そんなゲーテも時間は豊かにあるものと安心してはいなかった。瞬間を活動で満たしていなければ、という切迫感を持ち合わせていたのである。

 それを証明する次の言葉は『箴言と省察』『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』からのものである。
 「活動のみが恐怖と不安を追い払う、どんなことも先に延ばすな、汝の一生は不断の実行であれ」
 時間に対するゲーテのこの3種類の心理と態度は、われわれもまた日常において経験していることではある。その点ではこの天才とわれわれの間に質的相違はないのだが、いざ日常において時間に追われるとつい忘れてしまう。

 時間に対しての苦情、否定、苛立ちは何の実も結ばないのである。ただ、「肯定」の態度を取り、コツコツと実行することが時間を有効に使う唯一の手段なのであるということに気づかされるのだ。

ゲーテを天才にした瞑想の習慣

 時間は耕地である。それを実際に耕すのは他人ではなく、自分自身なのである。
 では、いかにしてわれわれはゲーテのような肯定的な時間観念を持った人間になることができるのか。ゲーテの言葉や行動を逐一記録し続けたニッカーマンの『ゲーテとの対話』には、ゲーテの起床は星が最後の輝きを放つ夜明け前で、そのときに瞑想する習慣を持っていたことが記されている。

 この瞑想こそ、ゲーテをひときわ光輝く天才にしたのだと私は思っている。瞑想することによって、ゲーテは過去から現在、現在から未来へと時間の中を自由自在に飛び回ることができたのだ。ゲーテは本能的に、失われた時間を取りもどす方法を知っていたのだろう。

(出典『夢をあきらめる前に読む本』田中孝顕、きこ書房〈一部変更アリ〉)

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